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広島地方裁判所 昭和47年(行ウ)38号 判決 1978年10月11日

尾道市美の郷町白江六〇五番地四

原告

大本勤

右訴訟代理人弁護士

阿佐美信義

相良勝美

服部融憲

緒方俊平

尾道市東御所町一〇-三四

被告

尾道税務署長 竹本次郎

右指定代理人検事

中路義彦

同大蔵事務官

三坂節男

同大蔵事務官

吉川定登

杉田泰啓

同法務事務官

菅近保徳

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和四六年二月二六日付でなした原告の昭和四三年分所得税につき総所得金額を一〇〇万三八〇七円とする更正処分のうち五五万円を超える部分および昭和四四年分所得税につき総所得金額を一四七万六六三一円とする更正処分のうち五五万円を超える部分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、自動車修理業を営む者であるが、昭和四三年分および昭和四四年分所得税につき総所得金額をそれぞれ五五万円とする確定申告をしたところ、被告は、昭和四六年二月二六日付をもつて昭和四三年分所得税につき総所得金額を一〇〇万三八〇七円と、昭和四四年分所得税につき総所得金額を一四七万六六三一円と更正する旨の各処分(以下、本件各更正処分という。)をした。

2  そこで原告は、昭和四六年四月二〇日本件各更正処分につき被告に対し異議を申立てたが、被告は同年七月これを棄却するとの決定をしたので、原告は法定の期間内に広島国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同審判所は昭和四七年八月これを棄却するとの裁決をし、その裁決書謄本は同年九月一九日原告に送達された。

3  しかし、原告の前記各年分の総所得金額はいずれも原告の確定申告額のとおりであつて、被告の本件各更正処分のうち右確定申告額を超える部分は、原告の総所得金額を過大に認定した違法があるので、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の各事実は認め、同3は争う。

三  被告の主張

1  被告は、原告の本件各係争年分の所得調査に際し、実額による正確な所得計算をしようと務め、再三原告の店舗に臨場して、原告に対し調査年分にかかる所得計算の資料となる諸張簿および原始記録ならびに原告の確定申告における申告額の基礎資料等の提示を求めたが、原告から具体的な資料等の提示がなく、また事業の内容について十分な説明もなく、調査に対する協力が得られなかつた。

そのため被告は、やむなく、原告の取引先等を調査して得た原告の仕入金額等の資料を基礎として、所得税法一五六条(推計による更正又は決定)に基づき、原告と同規模の同業者の平均的な差益率により原告の売上金額を算出し、これに右同業者の平均的な所得率を乗じて得られた算出所得金額から特別経費および事業専従者控除額を差し引いて原告の本件各係争年分の所得金額を推計したところ、原告の確定申告額と相違したので、本件各更正処分をしたのである。

2  しかして、被告がその後の資料をも加えて検討したところ、原告の本件各係争年分の総所得金額およびその内訳は次のとおりであり、その範囲内でなされた本件各更正処分は適法である。

(一) 昭和四三年分

(1) 売上金額 六六五万九七五一円

イ 中古車修理販売金額 一八六万八六〇五円

原告の昭和四三年分中古車修理販売原価一五七万五九八二円を基礎として、別表一の中古車修理販売にかかる昭和四三年分同業者平均差益率一五、六六パーセントを適用し、次の算式により求めた。

1,575,982円÷(100%-15.66%)=1,868,605円

ロ 修理収入金額 三六五万九三七四円

原告の昭和四三年修理収入原価一九二万九五八八円を基礎として、別表一の修理収入にかかる昭和四三年分同業者平均差益率四七、二七パーセントを適用し、前記イと同じ方法により求めた。

ハ 外注収入金額 九九万五二五二円

外注費七八万六五四八円を基礎として、別表三の同業者または原告の外注先の外注にかかる平均差益率二〇、九七パーセントを適用し、前記イと同じ方法により求めた。

ニ 新車(自動車) 一二万一〇〇〇円

原告が昭和四三年中に販売した新車一一台分の手数料一四万三〇〇〇円から右新車に添付した部品費二万二〇〇〇円を控除したもの。

ホ 新車(二輪車)販売手数料 一万五五二〇円

(2) 売上原価 四二九万二一一八円

イ 中古車修理販売原価 一五七万五九八二円

原告が昭和四三年中に仕入れた中古自動車は、別表四のとおり一二台合計一六一万六八〇〇円で、中古自動車の年初たな卸金額は零、年末たな卸金額は広島トヨペット株式会社からの仕入分一台一九万円であつた。また、仕入れた中古自動車を販売に供するため修理整備に費した部品費は一台あたり一万三五六二円と認定し、これに昭和四三年中の販売台数一一台を乗じ合計一四万九一八二円とした。従つて、中古車修理販売原価は、前記中自動車の仕入金額一六一万六八〇〇円から年末たな卸金額一九万円を控除した金額に修理整備部品費一四万九一八二円を加算した一五七万五九八二円となる。

ロ 修理収入原価 一九二万九五八八円

原告が昭和四三年中に仕入れた修理部品費の総額は別表五のとおり二一〇万〇七七〇円であるが、修理部品の年初および年末たな卸金額に差異があるとする特別の事情も認められないので、右仕入金額から前項の中古車修理販売に費した部品費一四万九一八二円と原告が昭和四三年中に販売した新車に添付した部品費とを控除した金額が修理収入原価となる。新車添付部品費は一台あたり二〇〇〇円と認定され、同年中の新車販売台数は一一台であるから、合計二万二〇〇〇円となる。従つて、修理収入原価は、前記修理部品仕入金額二一〇万〇七七〇円から中古車修理販売部品費一四万九一八二円と新車添付部品費二万二〇〇〇円とを控除した一九二万九五八八円となる。

ハ 外注費(原告主張額) 七八万六五四八円

(3) 算出所得金額 一六三万四八五六円

イ 中古車修理販売 一七万九〇一二円

前記中古車修理販売金額一八六万八六〇五円に、別表一の中古車修理販売にかかる昭和四三年分同業者平均所得率九・五八パーセントを乗じて求めた。

ロ 修理 一一一万〇六二〇円

前記修理収入金額三六五万九三七四円に、別表一の修理収入にかかる昭和四三年分同業者平均所得率三〇、三五パーセントを乗じて求めた。

ハ 外注 二〇万八七〇四円

前記外注収入金額九九万五二五二円に、別表三の外注にかかる平均所得率二〇、九七パーセントを乗じて求めた。

ニ 新車(自動車)販売手数料 一二万一〇〇〇円

ホ 新車(二輪車)販売手数料 一万五五二〇円

(4) 特別経費 九万七七八七円

イ 雇人費 六万二五〇〇円

ロ 借入金利子 二万〇六九〇円

ハ 建物減価償却費 一万四五九七円

(5) 専従者控除額 一五万 円

(6) 差引所得金額 一三八万七〇六九円

(二) 昭和四四年分

昭和四四年分についても総所得金額の算出方法は昭和四三年分と同様であるから、以下適宜省略して述べる。

(1) 売上金額 一〇四七万一六五〇円

イ 中古車修理販売金額 五一四万二一四七円

中古車修理販売原価四三三万八四三〇円に別表二の同業者平均差益率一五、六三パーセントを適用して求めた。

ロ 修理収入金額 三五一万〇〇四九円

修理収入原価一七六万六二五七円に別表二の同業者平均差益率四九、六八パーセントを適用して求めた。

ハ 外注収入金額 一五三万六四五四円

外注費一二一万四二六〇円に別表三の平均差益率二〇、九七パーセントを適用して求めた。

ニ 新車(自動車)販売手数料 二八万三〇〇〇円

二〇台分の販売手数料三二万三〇〇〇円から添付部品費四万円を控除したもの。

(2) 売上原価 七三一万八九四七円

イ 中古車修理販売原価 四三三万八四三〇円

中古自動車仕入金額は別表四のとおり三七四万〇五〇〇円で、年初たな卸金額は一九万円、年末たな卸金額は広島トヨペット株式会社からの仕入分一台一三万円であつた。また、右中古自動車販売のため修理整備に費した部品費は一台あたり一万七九三一円と認定し、販売台数三〇台を乗じ合計五三万七九三〇円とした。従つて、中古車修理販売原価は、前記仕入金額三七四万〇五〇〇円に年初たな卸金額一九万円と修理整備部品費五三万七九三〇円とを加算した金額から年末たな卸金額一三万円を控除した四三三万八四三〇円となる。

ロ 修理収入原価 一七六万六二五七円

修理部品の仕入金額は別表五のとおり二三四万四一八七円で、新車添付部品費は一台あたり二〇〇〇円、販売台数二〇台分四万円である。修理部品の年始および年末のたな卸金額を同額とすると、修理収入金額二三四万四一八七円から前項の修理整備部品費五三万七九三〇円と新車添付部品費四万円を控除した一七六万六二五七円となる。

ハ 外注費(原告主張額) 一二一万四二六〇円

(3) 算出所得金額 二二〇万八〇三五円

イ 中古車修理販売 五三万六八四〇円

前記中古車修理販売金額五一四万二一四七円に別表二の同業者平均所得率一〇、四四パーセントを乗じて求めた。

ロ 修理 一〇六万六〇〇一円

前記修理収入金額三五一万〇〇四九円に別表二の同業者平均所得率三〇、三七パーセントを乗じて求めた。

ハ 外注 三二万二一九四円

前記外注収入金額一五三万六四五四円に別表三の平均所得率二〇、九七パーセントを乗じて求めた。

ニ 新車(自動車)販売手数料 二八万三〇〇〇円

(4) 特別経費 二〇万二四九六円

イ 雇人費 一六万八〇〇〇円

ロ 借入金利子 一万九八九九円

ハ 建物減価償却費 一万四五九七円

(5) 専従者控除額 一五万 円

(6) 差引所得金額 一八五万五五三九円

3  仮に、原告が外注した場合に何ら利潤を得ていなかつたとすると、原告の算出所得金額は昭和四三年分一四二万六一五二円、昭和四四年分一八八万五八四一円で、差引所得金額は昭和四三年分一一七万八三六五円、昭和四四年分一五三万三三四五円となり、この場合でも本件各更正処分は右範囲内でなされているから適法である。

4  被告が、原告の中古車修理販売と修理とにかかる売上金額および算出所得金額を推計するため、その基礎となる同業者を選定した経緯は次のとおりである。

昭和四三、四年当時尾道市内において自動車整備修理業を営む者は一五、六人存在し、そのうち法人経営の者は五、六人であつた。個人経営と法人経営とでは差益率、所得率において異なることが多いので、法人経営のものを除外すると、原告と同様の個人事業者は一〇人ぐらいであつたが、そのうち青色申告者は五、六名で、その余は白色申告者であつた。右白色申告者については、帳簿の保存が全然ないか又はあつても不正確であるとかの事情で、これを資料とすることができなかつた。また前記青色申告者五、六名のうち、原告と同じく中古車修理販売および自動車修理等を行う態様の者は昭和四三年には二名、昭和四四年には四名あつたが、それ以外の者は、中古車修理販売あるいは自動車修理のいずれかのみを専門とする業者であり、その両方を取扱う原告とは業務形態を異にするため、前記同業者比率算定の資料とすることは不適当なものであつた。

そこで被告は、昭和四三年分については前記二名(仮にA、Bで表示する。)、昭和四四年分については前記四名(仮にC、D、E、Fで表示する。)を、原告と同一地域にあつて、同一内容の業種で、かつ、同規模の同業者として選定した。如上の選定の経過からみて、右各同業者は推計資料として合理性を有するものである。

四  被告の主張に対する原告の認否および反論

1  被告の主張1の推計課税の必要性の存在は争う。

原告は、本件各係争年分の所得申告に際し、昭和四三年度において原告の従業員部谷和平が肝臓病のため入通院し、また原告自身も左手負傷のため昭和四四年八月から一〇月にかけて通院したため、特に外注費が増えて所得率の下がるべき事情のあつたことを診断書を添えて被告税務署の係官に説明したにもかかわらず、右係官はこれを真摯に聞く態度をとらなかつた。その後、原告は昭和四五年六月から七月にかけて被告税務署係官らから三回にわたり臨場調査を受けたが、右調査は第一回一時間、第二回三〇分間、第三回二〇分間という形式的なものであつた。しかも、右調査の際、原告は右係官らに対し原告が調査対象者として選定された理由およびそれまでの調査で右係官らが認識した資料の開示を求めたのに、右係官らは原告に対し一方的に帳簿類の提示を求めるのみで原告の要求に応ぜず、かえつて原告と尾道民主商工会との関係など所得調査のためには必ずしも必要と思われないことを質問したりするので、原告としては他事考慮の疑いを強く抱いてこれに反発し、右係官らに対し帳簿類を提示しなかつたのも当然であつた。

右経過に鑑みると、被告税務署係官らは、自らの関心のみから、原告から資料の提供を拒否されることを当然の経果として予想しながら形式的に調査に赴き、原告が資料提供を拒むや直ちに推計課税の方法を採用したものであることが明らかである。このような調査の方法と内容は、未だ法の要求する推計課税の要件を充たすものでなく、本件においては推計課税の採用そのものが違法であつたとされなければならない。

2  原告の本件各係争年分の総所得金額の計算に関する被告の主張2、3について(以下、認否は各年分に共通)

(一) (1)の売上金額は、昭和四三年分のホ新車(二輪車)販売手数料を除き、すべて否認する。

イの中古車修理販売金額およびロの修理収入金額を算出するために被告が適用した同業者平均差益率は、後記主張3のとおり合理性がない。

ハの外注収入金額は、イの中古車修理販売金額またはロの修理収入金額のうちにすでに計上されているはずのもので、右イ、ロの外に外注収入金額なるものが存在するのではない。

ニの新車(自動車)販売手数料については、控除されるべき添付部品費が低額に過ぎる。

(二) 外注費として、昭和四三年分七八万六五四八円、昭和四四年分一二一万四二六〇円が存在することは認める。ただし、右外注費は特別経費として計上されるべきである。

(三) (3)の算出所得税金額は、昭和四三年分の新車(二輪車)販売手数料を除きすべて否認する。被告主張の同業者平均所得率も前記差益率と同様合理性がない。

(四) (6)の差引所得金額は否認する。

3  被告の主張4の推計資料の合理性は争う。

原告は、調査により、被告が同業者比率算定の根拠として挙示するAないしFの同業者を具体的に特定することができたが、右調査を踏まえ原告と右同業者との類似性を考察すると、まず地域的な同一性において、尾道市中心部から一〇キロ以上も隔たつた美の郷地区にある原告と類似するのはEのみであり、A(なお、CはAと同一人である。)、Dは尾道市内でも市街地に属する場所にあり、B、Fは島嶼部にあつて、いずれも原告とは営業の条件が異なる。営業年数においては、右同業者はいずれも原告より最短三年(E)から最長一二年(A)の経験の長さを有する。また営業規模についても、右同業者は従業者数において原告を大きく上回り(A、すなわちCは昭和四三年度五名、昭和四四年度四名、Dは三名、Eは五名、Fは七名、Bは不明)、取扱高において特にB、E、Fは原告とは比較にならぬ大規模な経営である。

以上に指摘したとおり、被告の挙示する同業者は、いずれも原告とは全く異なる業態であるから、到底推計の資料とはなしえないものである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証の一ないし六、第二号証の一、二、第三号証の一ないし一二、第四号証の一ないし四、第五号証、第六、第七号証の各一ないし四、第八ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二ないし第一七号証

2  証人村上三成、原告本人(第一、二回)

3  乙第二九号証の原本の存在および成立を認め、その余の乙号各証の成立を認める。

二  被告

1  乙第一ないし第六号証の各一ないし五、第七ないし第一二号証の各一、二、第一三号証の一ないし五、第一四号証の一ないし九、第一五号証の一ないし六、第一六号証の一、二、第一七ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし七、第二一ないし第二九号証

2  証人森清、同讃岐義太郎、同永広育夫、同三坂節男

3  甲第一二ないし第一七号証の原本の存在および成立を認め、その余の甲号各証の成立を認める。

理由

一  請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。

二  推計の必要性について

1  本件各更正処分が推計によつてなされたことは、当事者間に争いがない。

2  原告は本件において推計による課税はその要件を欠き許されないと主張するので、まず推計の必要性の存否について判断する。

被告係官らが、原告の本件各係争年分の所得税調査のために、昭和四五年六月から同年七月にかけて三回にわたり原告の店舗に臨場し、所得金額計算の基礎となる諸帳簿や原始記録等の提示を求めたのに対し、原告から右資料の提示がなかつたことは当事者間に争いがなく、証人森清の証言によれば、右臨場調査の際、原告は取引銀行と取引先三店を明らかにしたにとどまり、それ以上の説明、協力をしなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。

原告は、本件所得税調査は形式的に行われたにすぎず、また、原告が被告係官らに帳簿類等の提示をしなかつたのは、原告を調査対象者として選定した理由や、右係官らがそれまでの調査で得ていた資料の開示を求めたのに、右係官らはこれに応じようとせず、一方的な調査に終始したことなどに反発したためであるから、右調査は未だ推計課税の要件を充たすものではないと主張するが、証人森清の証言によれば、原告に対する臨場調査は、第一回が三時間に及ぶなど、原告主張のごとき形式的なものではなかつたことが認められ、また、税務職員が質問検査権を行使するについて、調査理由や資料を被調査者に開示すべき法律上の義務が課せられているわけではなく、開示の可否は税務職員の合理的な裁量に委ねられていると解されるから、原告の右主張は失当である。

3  以上の事実によると、原告の本件各係争年分の所得金額について、被告が収支実額のすべてを把握することは不可能であつたと認められるから、被告が右所得金額を推計によつて認定し、その結果に基づき本件各更正処分に及んだことに違法な点はないというべきである。

三  次に、原告の本件各係争年分の総所得金額について判断する。

1  次の各金額については、原告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

(一)  昭和四三年分

(1)の売上金額のうち

ホ 新車(二輪車)販売手数料 一万五五二〇円

(2)の売上原価のうち

イ 中古車修理販売原価 一五七万五九八二円

ロ 修理収入原価 一九二万九五八八円

(3)の算出所得金額のうち

ホ 新車(二輪車)販売手数料 一万五五二〇円

(4)の特別経費 九万七七八七円

イ 雇人費 六万二五〇〇円

ロ 借入金利子 二万〇六九〇円

ハ 建物減価償却費 一万四五九七円

(5)の専従者控除額 一五万 円

(二)  昭和四四年分

(2)の売上原価のうち

イ 中古車修理販売原価 四三三万八四三〇円

ロ 修理収入原価 一七六万六二五七円

(4)の特別経費 二〇万二四九六円

イ 雇人費 一六万八〇〇〇円

ロ 借入金利子 一万九八九九円

ハ 建物減価償却費 一万四五九七円

(5)の専従者控除額 一五万 円

2  中古車修理販売、修理にかかる売上金額ならびに算出所得金額について

(一)  被告は、実額調査によつて把握した原告の中古車修理販売と修理との各売上原価を基礎として、これに同業者の平均差益率を適用して売上金額を算出し、次いで右売上金額に右同業者の平均所得率を適用して算出所得金額を推計する方法を採つているので、まず、推計の基礎となつた右同業者が推計資料として合理性を有するか否かについて検討する。

成立に争いのない乙第一ないし第六号証の各一ないし五、第七ないし第一二号証の各一、二、第一三号証の一ないし五、証人永広育夫の証言によれば、昭和四三、四年当時、自動車整備修理等を業とする者は尾道市内に一五、六名あつたが、そのうち個人事業者である原告との比較に適当でない法人形態の五、六名を除くと個人事業者は一〇名程度であつたこと、個人事業者のうち白色申告者は、計算の根拠となる記録が全くないか、あつても不正確であるため、推計の資料としては採用しがたく、これを除外すると個人の青色申告者五、六名であつたこと、右の青色申告者のうち、原告と同様に中古車修理販売と修理の双方を営む者は、昭和四三年度二名(被告主張のA、B)、昭和四四年度四名(同じくC、D、E、F)で、それ以外の者は、右の二業種のうちいずれか一方のみを専門とし、推計資料として適当でなかつたこと、そこで被告は、右の昭和四三年度二名(A、B)、昭和四四年度四名(C、D、E、F)の同業者を原告の中古車修理販売と修理にかかる売上金額および算出所得金額算定の資料として採用し、その各所得税青色申告決算書の記載を基にして、中古車修理販売と修理とにかかる収入金額、差益金額、所得金額を各算定のうえ、右差益金額、算出所得金額の収入金額に対する各比率(差益率および所得率)ならびに右各比率ごとの平均を算出したところ、その結果は別表一、二のとおりであつたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると、前記A、B(昭和四三年度)、CないしF(昭和四四年度)の同業者は、いずれも原告と同様、尾道市内にあつて、中古車修理販売と修理の双方を営む個人事業者であり、立地条件、営業形態において原告との類似性が認められ、しかもすべて青色申告者であることに徴すると、その収支計算の正確性についても比較的信頼しうるものと推認できるから、右同業者の平均差益率、同所得率による原告の所得金額の推計は合理性があるものと是認することができる。

(二)  そこで、原告の本件各係争年分の前記中古車修理販売原価、修理収入原価に別表一、二の各年分の同業者平均差益率を適用して各売上金額を算出すると(その算出方法は被告の主張と同じ)、次のとおりとなる。

昭和四三年分

中古車修理販売金額 一八六万八六〇五円

修理収入金額 三六五万九三七四円

昭和四四年分

中古車修理販売金額 五一四万二一四七円

修理収入金額 三五一万〇〇四九円

そして、右各売上金額に別表一、二の各年分の同業者平均所得率を乗じて算出所得金額を求めると、次のとおりとなる。

昭和四三年分

中古車修理販売 一七万九〇一二円

修理 一一一万〇六二〇円

昭和四四年分

中古車修理販売 五三万六八四〇円

修理 一〇六万六〇〇一円

3  外注について

(一)  外注費として昭和四三年分七八万六五四八円、昭和四四年分一二一万四二六〇円が存在することは、当事者間に争いがない。

(二)  原告は、被告が外注費に対応するものとして計上する外注収入金額は、前記中古車修理販売金額または修理収入金額の中に含まれているはずのもので、外注収入金額なるものが別個に存在するのではないと主張する。

原告の右主張は、前記売上原価(中古車修理販売原価および修理収入原価)に計上される部品が外注先に提供されているなど、外注の介在する売上金額が前記中古車修理販売金額および修理収入金額の各一部と重複することを前提とするものであるが、売上原価に中古車修理販売原価及び修理収入原価のほかに外注費の存在することは当事者間に争いがないのであるから、原告には、前記中古車修理販売金額と修理収入金額の外に、外注による収入金額があるものというべく、証人村上三成の証言および原告人尋問の結果(第一、二回)中右認定に反する部分は、成立に争いのない乙第二一、第二二、第二五号証および証人三坂節男の証言に照らし容易に措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  次に、前掲乙第二一、第二二号証、成立に争いのない乙第二三、第二四号証および証人三坂節男の証言を総合すると、原告の外注先である阿賀電機工業所および尾道自動車鈑金工場においては、昭和四三、四年当時、同業者から修理等の依頼を受けた場合には、一般の顧客から依頼を受けた場合に比べて一五ないし一〇パーセント程度代金を値引きしており、従つて、依頼した同業者は右値引分相当の差益を得ていたはずであること、また、原告の同業者である津田モータースにおける外注の差益率は、昭和四三、四年当時ほぼ三〇パーセントであつたこと、さらに、同業者の岡自動車鈑金塗装の昭和四八年度における外注の差益率は二八・九〇パーセントであり、右差益率は昭和四三、四年当時もほぼ同じてあつたことがそれぞれ認められ、右各事例を平均すると、外注の場合の差益率は別表三のとおり二〇・九七パーセントとなるから、原告も昭和四三、四年当時その程度の外注による差益を得ていたものと推認される。証人村上三成の証言および原告本人尋問の結果(第一、二回)中右認定に反する部分は措信しない。

(四)  すると、原告の外注収入金額は、前記外注費に右平均差益率二〇・九七パーセントを適用して、昭昭和四三年分九九万五二五二円、昭和四四年分一五三万六四五四円となる。

そして、算出所得金額は、右外注収入金額から前記外注費を差し引いて、昭和四三年分二〇万八七〇四円、昭和四四年分三二万二一九四円となる。

4  新車(自動車)販売手数料について

(一)  原告が、新車(自動車)販売手数料として、昭和四三年分一四万三〇〇〇円(一一台分)、昭和四四年分三二万三〇〇〇円(二〇台分)を取得したことは、原告においてこれを明らかに争わないから自白したものとみなす。

(二)  成立に争いのない乙第二六、第二七号証、証人永広育夫同三坂節男の各証言を総合すると、新車(自動車)に添付される標準的な部品の代金は自動車の販売価格に含まれており、原告のような中古車修理販売業者が、新車(自動車)の販売を斡旋して手数料を得る場合に、右の標準的な添付部品の外に自己の負担において部品を添付することもあるが、その金額は一台につきせいぜい二〇〇〇円であることが認められ、原告本人尋問の結果(第一回)のうち右認定に反する部分は措信できない。

(三)  すると、原告の所得金額に計上されるべき新車(自動車)販売手数料の金額は、原告が収受した前記手数料から、一台あたり二〇〇〇円の添付部品費を控除したものとなるから、昭和四三年分新車(自動車)販売手数料(算出所得金額)は、前記一四万三〇〇〇円から添付部品費一一台分二万二〇〇〇円を差し引いた一二万一〇〇〇円、同昭和四四年分は、前記三二万三〇〇〇円から添付部品費二〇台分四万円を差し引いた二八万三〇〇〇円となる。

5  以上の事実によれば、原告の昭和四三年分総所得金額は、算出所得金額の合計一六三万四八五六円(中古車修理販売一七万九〇一二円、修理一一一万〇六二〇円、外注二〇万八七〇四円、新車(自動車)販売手数料一二万一〇〇〇円、新車(二輪車)販売手数料一万五五二〇円)から特別経費九万七七八七円と専従者控除額一五万円を差し引いた一三八万七〇六九円となり、昭和四四年分総所得金額は、算出所得金額の合計二二〇万八〇三五円(中古車修理五三万六八四〇円、修理一〇六万六〇〇一円、外注三二万二一九四円、新車(自動車)販売手数料二八万三〇〇〇円)から特別経費二〇万二四九六円と専従者控除額一五万円を差し引いた一八五万五五三九円となるから、本件各更正処分は原告の総所得金額の範囲内でなされており、右各処分に原告の総所得金額を過大に認定した違法はない。

四  よつて、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 森田富人 裁判官 大谷禎男 裁判長裁判官中原恒雄は転任につき署名捺印できない。裁判官 森田富人)

別表一

昭和四三年分差益率及び所得率明細表

一 中古車修理販売

二 修理収入

別表二

昭和四四年分差益率及び所得率明細表

一 中古車修理販売

二 修理収入

別表四

中古自動車仕入明細表

別表三

外注

別表五

自動車部品仕入明細表

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